2010年10月26日火曜日

Ras Vangi

私はインド料理をよく作りますが、作っていないときは、料理がどこで生まれてどのように進化していったのかといったことをよく考えたりしています。今日の料理は、どこで生まれたかについてのお話です。

このRas Vangi(or Rasa Vangi)という料理は、長年私の中では謎めいていた料理でした...
南インド料理をよく作っている人は、洋書のレシピ本を数冊持っている人もいるでしょう。そうすると、この名前の料理を見たことがある人がいるかと思います(google等で料理を検索される方はRasa Vangiで探すと見つかりやすいです。以後しばらくRasa vangiで表記します)。レシピを見た時にとても違和感と困惑させられた。それが6年もの間続くのです。
レシピを見られた方は、何か気がついたことがないでしょうか。この料理は、まるでサンバルといっても過言ではないぐらい似通っていると思いませんか? だとすればサンバルではないのか? それが私が最初に感じたことです。ナスが入ったサンバルをRasa Vangiと呼ぶのか?  しかしながらそれは説得力に欠ける。そもそもナスが入ったサンバルは、やはりサンバルだ。しかしながらRasa Vangiは、どうみてもサンバルだ。まるで禅門答ですね...
このとき思っていたのは、おそらく地域の違いによって、呼び名が変わっているのだろうと漠然と考えていた。ある地域の料理は、別のところに行けば、似ている料理でも呼称が違うのものがいくつかあるからです。
料理の名前というものを意識するようになったのは、タミル語を勉強し始めて、2~3年ぐらいしてからだったと思う。料理に付いている名前は、大体のものが意味があります。中国料理では、具+調理方法などの法則があるし、慣れてくるとどういうものか大まかに捉えることができる。
だとすれば、タミル料理でも同様のことが言えるのではないかと。それからことあるごとに、気になる料理名を、友人のタミル人に聞いたり辞書、インターネット等から調べていった。そしたらやはりその法則は当てはまる。全部が全部とはいわないが、的を得ていたようです。
それで話はRasa Vangiに戻る。ここまでわかってきて、Vangiがナスを意味することはわかった。Vangiという呼び方は、タミルというよりアーンドラプラディシュやカルナータカ方面で使われるのを見たことがあるので(つまりテルグ語、カンナダ語で共通していたと思った)、源流がそっちではないかと思うようになった。これで解決かと思ったのだが、どうも釈然としない。そもそも、タミル人のブラーミンの方が書かれた料理本で、タミルのクラシック料理を紹介するのに(Samaithu PaarやVijiさんの本)、この料理が出てくるのである。だとすれば、タミルの郷土料理でなければ、説明がつかないと思う(とはいえ、Samaithu Paarはかならずしもそうではなさそう。あくまでもS.Meenaksi Ammal女史の得意としていた料理のBest本ということなのかも)。
名前がそもそもタミル語ではない。タミル語であれば、ナスはKathirikkai(無理やり発音をカタカナで書くとカスリッカィか)にならなくてはいけない。謎は深まるが、やはり料理名には何かが潜んでいるとの思いは変わらなかった。
状況が一変したのは、本当にごく最近。長年いろいろなレシピや、料理にまつわる話を聞いたり見たりしていたが、ときにはそれらがふと一本繋がって解決してしまうことがある。まさに今回もそんな感じだった。今までは料理名を基にして地域や源流をわりだそうとしていたが、そうではなく、地名とかコミュニティから辿ったのである。話が長くなってきたので、結論から言ってしまうと、この料理の源流はTanjore Marathaにあるようです。
ここでTanjore Marathaについて書くと、メチャクチャ長くなるし、私も正確にそれについて記述する自信はない。かいつまんで説明すると、タミル・ナードゥのタンジャヴールという土地をかつて統治した、マラータ族またはその子孫を指す。
マラータ族は、中央アジアからデカン高原一帯、そしてタンジャヴールへと足を延ばして、それらを統治してきた。母国語はタンジャヴールマラーティ後ですが、多くの教養人はカンナダ語やタミル語を話すことができる。
つまり、Vangiはマラーティ語だったのです。Rasについては、まだ判明していませんが、タンジャヴールマラータの間ではとてもポピュラーな料理らしいです。RasとかRasaは、なんとなくサンスクリットの...たしか「味」だったか、そういう意味を連想させますね。このあたり何か関連があるのかもしれない。
本来はRasという料理なので、このblogではRas Vangiとしています。別の呼び方としては、Vangyacha Rasとも言うようです。頭がRasで始まるときは、Rasaになるのかもしれませんが、このあたりはまったくもって不明です。こんどマラーティ語を話すことができる、インド人の友人に聞いてみましょう。
そういうわけでTanjore Marrathaは、タミル・ナードゥのタンジャヴールに住みついている、マラーティ語を話す人たちのコミュニティなのです。それは、タミルの範疇にはいるものとして、郷土料理として育んできたというわけですね。
Tanjore Marathaが源流となっている料理は、他にもいろいろありますが、それらは現在はカルナータカ料理の範疇に入っているものもあります。まぁそのあたりはいずれ機会があったら紹介します。
このRas Vangiは、多くのレシピではスパイスの違いぐらいで、サンバルと似通っています。まぁサンバルそのものについても、実はTanjore Marathaが関係しています。それはまた次回の楽しみにとっておきましょう。では、今回作ったもののレシピを以下に。こういう感じで作られるようです。


 Ras Vangi(or Vangyacha Ras) Lentil - Vegetable Stew

ペースト
チャナダル     小さじ2
ウラッドダル    小さじ1
メティ       小さじ1/2
ポピーシード    小さじ1/2
コリアンダー    小さじ1/2
クローブ      1
シナモン      2.5cm
ホールチリ     2
ココナッツファイン  大さじ1〜2

ヒング       小さじ1/4
ジャガリ      小さじ1

ナス         3本ぐらい
タマリンド     ピンポン玉1/2ぐらい
ターメリック    小さじ1/4
トゥールダル    1/2カップ
塩          適量


テンパリング
マスタード    小さじ1
カレーリーフ    8枚ぐらい
油        大さじ1


下ごしらえ
・トゥールダルを、水4カップで煮ておく。
・ナスを乱切り
・ペーストの材料で、ココナッツを除いたものを油小さじ1で、ロースト。
・色付いたら、一旦取り出して、ココナッツをブラウンまでロースト。
・上記をヒング、ジャガリと共にペーストにする。
・タマリンドは水1カップでもみだしておく。

作り方
1. 鍋に油をしいて、マスタードを投入。
2. はじけたらカレーリーフ、ナス、塩を加えて5分ぐらい軽く炒める。
3. タマリンド水、トーゥルダル、ターメリック、ペーストを加えて火が通るまで煮込む。

スパイスのマサラ部分は、作り置きのパウダーではなく、調理の度に作られるのが特徴ですが、これはタミルだとAraichu Vittaと表現されるようです。Araichu Vitta Sambarとかいうと、フレッシュスパイスを使ったサンバルということになります。クラッシックと言われている古典のレシピでは、たいていスパイスはペーストにして加える方法で作られていますね。
それらをパウダーにして、ストックしておけるように時代とともに変わっていくわけです。

2010/10/27加筆

このレシピでは、トゥールダルとターメリックを加えてますが、元々Ras Vangi(もしくはRas全般か!?)では、豆とターメリックを入れないスタイルがあります。もしかするとそのスタイルこそが原点なのかもしれません。

2010/10/28加筆

Rasの意味がわかりました。ジュースという意味です。形態としては、ウォーター状のカレーというような感じになるでしょうか。つまり、タミル語でいうところのKuzhamubに相当するものと思われます。

4 件のコメント:

  1. おお!これが、このまえお話していたTanjore Marathaのことなんですね。
    すっごい興味深いです。
    もしインド中の言葉が理解できたら、料理の名前でいろんなことがわかって、違う州の料理の繋がりがもっと深く理解できそうです。
    宗教や地域やコミュニティの歴史と関連性を思うとロマンを感じます。

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  2. Tanjore Marathaの料理のなかの一つですね。
    一つ扉を開くとさらにわからないことが出てきて大変ですが、それがまた勉強しがいがあるというものです。

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  3. こういうのがもう少し解ると、インド料理の楽しみも増えてきますね!
    興味はあるのですが、何処から攻めていったら良いのか…
    先程、南インドの方に訊いたらRasは「味」という意味だと言ってました。

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  4. やはりサンスクリットが関係しているのでしょうね。
    Rasamもそのようですし。

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